【ショートショート】SUPER DISCO

今では空き地となった下町の一角、50年前そこにはディスコがあった。片田舎にも関わらず、連日都会に憧れる若者たちで賑わい、アース・ウィンド・アンド・ファイアーやABBAの音楽が夜を彩っていた。あの時、この場所は間違いなく小さな町の熱源だった。 今で…

午前4時過ぎ、その音は。

カラカラカラ。 午前4時10分。夜明け前の静寂に、何かを引きずる音が響き、目が覚めた。引っ越したばかりの築古のアパートは壁が薄く、1月の冷気も、行き交う人の笑い声も、シームレスに部屋までやってくる。そんな部屋でもこれまで快眠できていたのは、閑静…

勘違いロマンチスト万歳

「豊かさとは、自意識過剰にストーリーをこしらえる性質である」Taisei Fujimoto (1997~) 年の瀬に面白すぎる記事に出会った。栗原一貴さんという大学教授が、おしゃべりが過ぎる人の発言を邪魔する銃「スピーチジャマー」を開発して2012年にイグノーベル賞…

鼻息パラセール

世界が明るい。仕事を考えない週末の世界は、5倍の情報量で目に映る。 仕事こそないが、今週末やることは決めていた。朝は耳鼻科、昼はセレクトショップ巡って、習いごとに行き、夜は赤羽のせんべろ屋台でフィニッシュ。週末のタスクもこなしていくうちに気…

ヘアリキッドを使わない私がこどもなだけか

世間は保湿を甘くみている。 ビジネスホテルでなくても、ある程度ランクが高くても、ホテルには化粧水や乳液のスキンケア用品は置いてないことが多い。私も入念にケアしているわけではないが、敏感肌で保湿を怠るとニキビができてしまうし、冬場は加湿器がな…

ノリの悪い魚は知らない方が幸せだった

知らない方が幸せなことはある。 先日、初めて渓流釣りをした。開始早々2匹釣れたとこまでは良かったが、あとは竿が揺れる気配すらなくひたすら立ちんぼだった。 待ちを楽しむのが玄人の嗜みだとわかってはいるものの、せっかちビギナーにとっては釣れなく…

望まれない弁当 〜雑に食べてごめん〜

この頃私は「nosh(ナッシュ)」という、サブスクの冷凍弁当に助けられている。 疲れて家に帰ったあとも、レンジのボタンを押す体力さえあれば、それなりに栄養が整って、まともな味の夕食が一丁あがりだ。牛丼屋に行くより遥かに楽チン。 ただ少しネックなの…

映画の感想が慎重な彼は、人狼がうまい

映画が終わって、劇場が明るくなった直後。あなたは最初に何を話しますか。 私は何も話したくない。 フッと現実に引き戻される感覚が苦手なんです。 もう少し余韻に漂っていたいし、ただ酔っていたいので、動きたくないし、喋りたくない。みんな新鮮な感覚で…

犬も歩けば棒にあたるってやつだな【歩くを考える #3】

「犬も歩けば棒にあたる」という言葉が愛おしくてたまらない。 ご存知の通り、何か行動を起こそうとして、災難にあうという意味だ。 ことわざといえば?と問えば、多くの人がこの言葉を浮かべるだろう。 しかしその知名度の割に、日常会話で使うことはほとん…

「劇場」に棲みつく悲しき不器用モンスター

まぶたは薄い皮膚でしかないいはずなのに、風景が透けて見えたことはまだない。 もう少しで見えそうだと思ったりもするけど、眼を閉じた状態で見えているのは、まぶたの裏側の皮膚にすぎない。 あきらめて、まぶたをあげると、あたりまえのことだけれど風景…

ホーム・アディクト

独りぼっちの駅の鳩。迷子になっちゃったと気づく。 ベンチの下を右往左往。 どちらが地上かわからない。 手持ち無沙汰な駅の鳩。ただあてもなく地面つつく。 食べれるものは食べつくした。 固くて冷たい温度だけ。クチバシ伝ってやってきた。 クッキーくれ…

勘違い男の孤独のグルメ

仕事を終えて帰途につくと、ふと町の定食屋にいきたい衝動が込みあげてきた。 Google検索の末、気づくと老舗の渋い定食屋の扉に手がかかっていた。 時刻は20:30。仕事終わりのサラリーマンで溢れていてもいいはずだが、店内に客は一人もいない。話し声もなけ…

地球一周するトレイレットペーパー【歩くを考える #2】

「人が一生で歩く距離は地球一周分」と、本で読んだことがあります。 「とてつもなく長い距離を歩く」という文脈で語られていた気がしますが、最短距離で1週分なので、世界中を寄り道しながら歩き回るには時間が足りないんだよと言われているようで、私はす…

成金のひたむきさに倣え【歩くを考える #1】

成金という言葉がネガティブな意味で使われることに違和感がありました。 成金は将棋の歩兵が敵陣まで進んで「金と成る」ことに由来していますが、我々が日常で使う「成金」のイメージと、一マスずつひたむきに進んで「成った金」はまるで正反対のように思え…

逃飛行【ショートショート】

青年は部屋の隅っこの同じ場所で、毎日同じ本を読んだ。 目が覚めると、本を手にとって表紙を捲り始める。そして深夜までゆっくりと時間をかけてかけて読み終える。このルーティンを繰り返して2年が経った。 奇妙なことに毎日同じ本を読んでいるうちに、同…

コロナ限定ホームサウナ

盲目のピアニストや、アウトサイダーアートなど、身体の一部が不自由になるとその分ほかの感覚が鋭くなる、というのはよく聞く話だ。 時刻は深夜3時。私は39度の高熱にうなされながらベットに横たわっている。朝から寝通しなのでもう眠気もないが、ただマッ…

南極でペンギンを見たいので、ゴルフは引退します

ゴルフをやめると決めた。 大学1年で始めたゴルフ、惰性で続けてここまできたけど正直ハマりきれなかった。流れていく時間とお金に見合うだけの情熱を持てなかった。ゴルフって鈍る速度が速いから、やるならとことんやりたい。でも今の熱量で微妙な距離感で…

リボで払う気持ちがわかる

社会人になって、初めてまとまった給料をもらった。何を買おうか話題になったが、喜びもつかの間、3日後に迫るカードの引き落とし額を見て真顔になった。 金遣いの荒さも上には上がいる。会社同期のひとりは大量のカードとボーナス払いを駆使し、あらゆる手…

歯が浮くような名ゼリフ【ショートショート】

彼女は歯を磨いて心を整える。就職面接の前も、仕事がうまくいかない時も、カードの請求で首が回らない時も、ひとまず歯を磨いた。彼女にとって歯磨きは身を清めてストレスを発散する、一種の儀式のようだった。 家で映画を見る前にも、彼女は一連のルーティ…

彼氏はいつも予習する【ショートショート】

「旅行を彩るのは食事でも、絶景でもない。予習なんだ。」 これが彼氏の決まり文句。彼は旅行が近くと予習モードに入る。一緒に住んでいるから、そんな様子が嫌でも目に入る。 暇を見つけては、まずは地理から攻める、だとか、今日は歴史だな、とか本やネッ…

セルフィッシュ・フィッシュ②

あれから引き続き、頭を巡るのはバスのことばかりだった。 「バス サイズ 大きさ」と意味もなく同じ言葉を重ねて検索してみると、ページはユニットバスの規格で埋め尽くされ、「バス サイズ アメリカ」と入れると、アメリカの老舗靴ブランドG.H.BASSが少し顔…

セルフィッシュ・フィッシュ①

これは私が去年の11月に書いたものです。 訳のわからないことを書いていると、恥ずかしくなって下書きに葬っていたのですが、読み返すと1周回って面白い気がしたので、ここに供養します。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は自動運転分野の研究…

自分が回るのは新歓パーティくらいでいい

まさか地球が回っているのか、なんて考えたこともなかった。 最近読んでいる「チ。-地球の運動について-」というマンガがおもしろい。天動説が信じられている世界で、命をかけて地動説を研究するフィクションだ。主人公のひとりはたまたま転んだ拍子に、星が…

前髪を片付ける鶴の一声

私はお祭りに乗じて髪型を変える。 就活が終わったときは、勢いで友人たちと髪をカラフルに染め上げ、京都でシェアハウスをはじめた。5年も遅れて大学一年生のようなハジけ方をする私たちに「黒のほうがよかった」と無情な声は惜しみなく注がれたが、こちら…

私達はエロ人形より優位なのか

イギリスのアダルト系SNS「OnlyFans」が性的コンテンツの禁止を決定 引用:TechCrunch[1] 今朝のニュースはたちまち私の関心を引いた。OnlyFansとは、クリエイターがサブスクリプション料金を払っている登録者(Fan)に向けて、コンテンツを配信するプラットフ…

胸毛のかっこいい25歳のパパ

小学生のとき塾に通っていた私は、算数科のM先生が好きだった。 ロン毛でガタイのいいM先生はいつも陽気なあいさつとともに教室に入ってきて、生徒の疲れを吹っ飛ばす軽快な雑談をはじめる。だんだん生徒の気持ちがのってくると、エネルギーを保ったまま集中…

模範的パパ活のススメ

私は飽きっぽいところがある。 新しいことを初めると、のめり込むのも束の間、こいつはやればできそうだという気配だけ漂わせて、気づけば次のおもちゃに手を伸ばしている。 よく言えばなんでもやってみる好奇心と行動力があるし、悪く言えば自分にも他人に…

あの娘はいつだって股間を触る

私はサックスブルーのシャツをこれまでになく丁寧に畳んでいる。お気に入りのシャツだったが、気がつくと着る頻度が減っていき、ついにはフリマアプリで手放すことにした。 汚れたわけではないし、自分のスタイルと合わなくなったわけでもない。ただ自然と熱…

外来種に侵される部屋

私は千駄木で一人暮らしをしています。実家を出てからも留学にいく前後で街を変え、王子からウィーンへ拠点を移し、千駄木で3つ目。この谷根千エリアに住み始めて1年経ち、街にはどんどん愛着がわいています。根津神社に谷中銀座、路地裏のカフェ。好きな…

やってよかったICL

視界がクリアだと気分がいい。 先日の日記でも述べたとおり、私はICLという眼の中にコンタクトレンズを埋め込む手術を受けた。術後の経過も良好だ。寝起きでも視界が明瞭なのは感動する。最起き抜けに寝ぼけたままコップ1杯の水を飲み、前よりクッキリと映る…