模範的パパ活のススメ

私は飽きっぽいところがある。

新しいことを初めると、のめり込むのも束の間、こいつはやればできそうだという気配だけ漂わせて、気づけば次のおもちゃに手を伸ばしている。

よく言えばなんでもやってみる好奇心と行動力があるし、悪く言えば自分にも他人にも底がバレないままフィールドを変え続けている。バジリスクのように綺麗な水面だけを走り回っている私には、足元の水がどれだけ深いか分からない。実際は動きを止めたところで、足がついてしまうほど自分の底というのは浅いかもしれないが、それはできれば知りたくない。

その分野に打ち込んでいる人からすると、私のような半端者は鼻につくことがあるだろう。ただ、広くて浅いやつもうGood Night と言われる頃にはもうその場を去っている。それくらい私の足は早い。

 

大学に入学したての頃、私の忙しない情熱はゴルフに向かっていた。例によってちゃんと練習をしたのは最初の2年だけで、その後はまともにクラブも握らないまま、1年に一度のコンペで拍子抜けするようなミスショットを連発し、後輩の緊張をほどいて回る優しい先輩の鑑であり続けた。

 

このようにゴルフとはしばらくご無沙汰だったが、最近になって経験値を0にするのが惜しい気がしてまた練習を始めた。スクールに通ったり、ラウンドの予定をいれたり少しゴルファーらしくなってきているものの、3年のブランクは思ったより大きく、いまだに感覚を取り戻せていない。

早く思い出すにはやはり素振りだろう。素振り用の練習器具が欲しい。そうだ、大会に出るほどゴルフにゾッコンな母なら持ってるかもしれない。そう思って実家の母とテレビ電話している際に、ふと余っている器具がないか聞いてみた。

「そういうのはないなぁ。」

期待した答えは返ってこなかったが、

「あなた素振り用の棒とか持ってなかったっけ。」

と父親にも話を振ってくれた。すると父は、あるよと言って部屋からピカピカの棒を取って戻ってきた。

「ちょうど一昨日買ったんだけど、なかなかいいんだよね。」

父は嬉しそうに、体に巻きつく感覚がいいんだよなど呟きながらその棒を振り回し始めた。早くも新しい練習器具に惚れ込んでいる様子。聞くと、その棒はまさに私が欲しいと思っている練習器具だった。やっぱりあの器具いいんだな。父の満足げな顔を見ると余計に欲しくなってくる。自分にもあいそうだったら買うから帰った時に試させて、と頼んだところで母は横から鋭いパスを出した。

「良さそうだったら、そのままあげちゃったら?」

買ったばかりの新品は無心できないと私が思っていたそばから、母はこうもハッキリ踏み込んだ。言われてしまったら最後、ほとんど父に自由はない。

お、おう。そうだな。持ってってくれ。と受けいれた父の目は、無邪気に器具のよさを語っていた時から一転してどこか寂しそうに見えた。

母のアシストのおかげで私は新たな道具を手にした。少し奪いとったようで気の毒だが、快諾してくれた父の厚意はありがたく頂戴しよう。ただせっかくなら父も気分がいい状態でもらい受けたい。次に実家に帰る時はいつもより多めの興味を示して、父親が好きな幕末志士の話を振ってみよう。現金な息子に感じるかもしれないが、これも私なりの感謝である。お互いにハッピーでwin-winならそれに越したことはない。

これこそクラシックで純粋なパパ活・・・なんじゃないか。千代田線に揺られて実家に向かうときは、胸を張って港区を横切ろう。

 

そんな訳で、父親から譲り受ける棒を手に、当面は珍しくゴルフに留まってみようと思う。この棒を足元の水中に突き立てみたら、思いのほかすぐに底にぶつかってしまうかもしれないが、それはまたその時に凹むことにしよう。