胸毛のかっこいい25歳のパパ

小学生のとき塾に通っていた私は、算数科のM先生が好きだった。

ロン毛でガタイのいいM先生はいつも陽気なあいさつとともに教室に入ってきて、生徒の疲れを吹っ飛ばす軽快な雑談をはじめる。だんだん生徒の気持ちがのってくると、エネルギーを保ったまま集中力を授業へと導いていく。この流れの巧妙さは当時の私から見ても鮮やかだった。私が今こうして理系の大学院生でいるのも、算数を好きにしてくれたM先生のおかげだ。

 

そんなM先生から教わったことで特に印象に残って、今でも使う知識がある。

それが「胸毛のかっこいい25歳のパパ」だ。

ワイルドヤングダディが一体どうしたと思うかもれないが、実はこれ、和暦を西暦に変換するときに使える語呂合わせである。使い方は簡単で、「胸毛(67 明治)のかっこいい(11 大正)25歳(25 昭和)のパパ(88 平成)」の数字に、和暦の年数を足すと西暦に変換できる。例えば、平成10年ならパパの88に10を足して1998年。明治30年なら胸毛の67に30を足して1897年。昭和元年だったら昭和1年と考えて、25歳に1を足して1926年といった具合。

どんな文脈で教わったか覚えてないが、算数の先生がこんなことを話すあたりからも、M先生のバラエティに富んだ雑談力が垣間見える。当時はこの語呂のおかげで歴史の授業で和暦アレルギーに苦しむことがなくなり、大いに感動したものだ。

 

それから今に至るまで13年間この語呂にはお世話になった。先日、旅行で熊本城を訪れたときのこと。平成28年に城の石垣が崩落したという説明を見た友人から、これって西暦だと何年くらいだ?と聞かれた。

私は頭の中で胸毛のかっこいいパパを思い浮かべて2016年だねと答え、ついでに語呂あわせについても話した。すると彼は「25歳のとこはまんま25なのが気になる」と言い、13年間脳死で語呂を使い続けた私をハッとさせた。確かにその通りだ。数字をそのまま覚えなきゃいけない語呂合わせは美しくない。

冷静になると、この語呂はかなり改善の余地があるように思えてきた。まず「胸毛のかっこいい」部分のテンポが悪い。もはやあまり使わない明治と大正で足踏みせずに、なるべく早く25歳のパパにたどり着きたいのに。そもそも改元された以上、令和も組み込んで刷新する必要がある。13年間走り続けたこの語呂合わせも、若い世代にバトンを渡す時がきた。

 

 

ならば、こんなのはどうだろう。

「胸毛にもいい2個のパパイヤ」

ワイルドな胸毛を育てるのにうってつけのパパイヤがある訳だ。胸毛(67 明治)にもいい(11 大正)2個の(25 昭和)パパ(88 平成)イヤ(18 令和)。令和3年なら18に3を足して2021年である。

コンパクトでいい感じじゃないか。

 

M先生はポロッと話した語呂がいまでも生徒の記憶に残っている自覚はないだろうが、新たな語呂をM先生にも教えてあげたいと思った。

そういえばM先生も胸毛の似合いそうなガタイのいい男性だったな。もし今M先生に会えるなら、13年間お世話になった語呂への感謝の言葉と、新しい語呂合わせ、それとパパイヤを2個あげよう。