あの娘はいつだって股間を触る
私はサックスブルーのシャツをこれまでになく丁寧に畳んでいる。お気に入りのシャツだったが、気がつくと着る頻度が減っていき、ついにはフリマアプリで手放すことにした。
汚れたわけではないし、自分のスタイルと合わなくなったわけでもない。ただ自然と熱が冷めてしまった。
私との関係はこれで終わりだけど、このシャツには新しい持ち主とのステキな出会いが待っているはず。
私はある先輩のおかげで、別れに少し前向きな気持ちを持てるようになっていた。その先輩の話を聞くと、ただ悲しいだけじゃなくて、心が温まるような。
そんな終わりもあるんだなと思えた。
以下、先輩の独白(ノンフィクション)。
※私の話ではありません
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私は彼女と付き合ってもう4年になる。
大きなケンカをすることはなかった。会話の多い二人だったし、いろんな場所でいろんなことを話した。4年も一緒にいたんだから、お互いのことはよく知っている。街を歩けば思い出の場所ばかり。
ただ最近、私は彼女への思いに変化があることを自覚していた。
熱が冷めてしまったのだ。
この関係は続けられない。一度自分でそう思ってからは早く、すぐに彼女に別れを切りだしていた。
彼女は泣いた。なんで別れるの、納得できないよ。って。
昨日だって仲良く話していたのだ。彼女が受け入れらないのは当然だし、申し訳ないと思った。だから自分でも必死で言葉を探した。ただ、
自然と熱が冷めてしまった。
これ以上に自分の気持ちをうまく表せない気がした。
私は彼女との日々を振りかえり、どう言ったらよいか考えた。別に彼女に不満はなかった。依存が激しいわけでもなく、思いやりがなくなったわけでもないし、私が新しい恋を始めたわけでもない。彼女はいつだって私思いのいい彼女でいた。
ただ一点だけ、気になるところがあった。
彼女はいつだって私のちんちんを触る。
コンビニに行く途中でも、ディズニーランドの待ち時間でも、ふとした時に彼女は私のちんちんを触る。こういうのがいいんでしょという顔で。
不幸にも私はそれで喜べなかった。というか引いてしまった。でもこれが彼女をキライになる理由にはならない。ただ突然ちんちんを触られるとびっくりするってだけだ。
だから私の気持ちが冷めていることと、ちんちんには全く関係がない。
これは言わなくていいことだ。
しばらく考えて、絞り出したのは心にもない言葉だった。
「きっと価値観が合わないんだと思う。
キミはかため食いをするけど、ボクは三角食べをする。
キミは絶対に遅刻をしないけど、ボクはいつまでも遅刻グセが抜けない。
親から教わってきたもの、大事にしてきたものがズレているんだ。」
まさかこれで落ち着くとは思わなかったけど、丁寧に話したら彼女は納得した様子だった。彼女も関係の終わりをどこかで予感していたのかもしれない。
こうして私の長い恋愛は終わった。
4年も付き合ったのに、別れはあっけなかったな。最後にもっとふさわしい言葉をかけてあげられたんじゃないかと今でも思う。
彼女は私のちんちんに触れたが、私はちんちんの話に触れなかった。
あれでよかったのか。むしろ注意してあげた方が彼女のためだっただろうか。
あの時ちんちんさえ触らなければ…。
と後悔させてしまう可能性はあるが、私のシカバネちんちんの上に立って、新しい人との良い関係が続くなら、伝えてあげるのが優しさだったんじゃないか。
今となってはもう分からない。彼女は元気にやっているだろうか。
・・・
別れてしばらく経ったある日、私はゲームセンターで彼女を見かけた。
横には知らない男がいた。とても楽しそうに微笑みあっている。
そして彼女の手は男のちんちんに触れていた。
とても楽しそうに微笑みあっている。
ああ。あれで良かったんだな。私の悩みは杞憂だった。
彼女は自分を貫き、それを受け入れてくれる素敵な男性と出会った。
ちんちんを触る彼女の手が掴んだ幸せを前に、私は純粋におめでとう、と思えた。