外来種に侵される部屋

私は千駄木で一人暮らしをしています。実家を出てからも留学にいく前後で街を変え、王子からウィーンへ拠点を移し、千駄木で3つ目。この谷根千エリアに住み始めて1年経ち、街にはどんどん愛着がわいています。根津神社谷中銀座、路地裏のカフェ。好きな場所はどんどん増えましたが、結局一番落ち着くのは自分の部屋かもしれません。研究をするのも、食事をとるのも自宅です。私にとって居心地のいい空間にしようと思い、お気に入りの靴や本を飾ったり、植物を育てたり、この1年ですっかりカスタマイズされました。

 

ところが最近、私の城の平穏がおびやかされています。宅建暗記用メモが部屋に溢れだしたのです。最初はほんの出来心でした。なかなか覚えられないから少しだけ、一枚だけと軽い気持ちで手を出しました。しかし一度その威力を実感した時にはもう遅く、些細なことを覚えるにも身体がメモを求め、覚えもなくペタペタと貼るようになりました。一粒でもタネを落とすとたちまち辺りを埋め尽くす外来植物のように、緑色のメモはクローゼット、トイレの壁、モニターの端、と好き嫌いなく部屋を飲み込んでいきました。

 

壁の一角にはアフリカゾウの写真が飾ってあります。今ではその額縁にも魔の手が及び、癒しを求めて写真を見やると「損害賠償」の文字と目が合います。このゾウにもスキを見せてはいけない。そんな気がして自分の部屋なのに落ち着きません。

 

落ち着かないだけならいいのですが、先日はいよいよ実害がでました。内定式に向けて、何の気なしにシャツを壁にかけスチームアイロンを当てたときのことです。表側のシワを伸ばし終え、シャツを裏返すと見慣れない黒い模様が浮かんでいました。そう。壁に貼ったメモの上からスチームを当てていたため、熱を帯びたインクがシャツに転写されていたのです。この外来種はすみかを選びません。そしてシャツに滲んだ模様をよく見ると、「市町村長の許可」の文字。今日をもって私のシャツに行政の判が押されました。ある意味で厳かになったこのシャツを、実際に内定式に着ていくか少し悩みました。背中側だからバレないだろう。それに行政の許可も得ている。そんな悪い考えもよぎりましたが、内定式の場でカジュアルダウンしたプリントシャツを着るのはふさわしくないと判断し、結局別のシャツを選びました。

 

緑色の暗記メモという突如現れた外来生物。部屋の生態系はぐちゃぐちゃにかき乱されています。そして彼らは今なお勢力を拡大中です。外来種の侵略はいつまで続くのでしょうか。宅建試験まで2週間を切っています。2週間後、部屋の壁は本来の白さを取り戻せるでしょうか。もう1年これが続くとすると…。緑に侵された廃墟を想像するとゾッとします。

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イメージ図(京都府 愛宕ケーブル跡)

出典:https://www.mirainoshitenclassic.com/2016/04/7nature.html

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行政のお墨付きシャツ

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市町村長の許可(反転画像)