午前4時過ぎ、その音は。

カラカラカラ。

午前4時10分。夜明け前の静寂に、何かを引きずる音が響き、目が覚めた。引っ越したばかりの築古のアパートは壁が薄く、1月の冷気も、行き交う人の笑い声も、シームレスに部屋までやってくる。そんな部屋でもこれまで快眠できていたのは、閑静な住宅街と言うべき、地域の熱量の低さのおかげだったんだろう。

私はベッドから起きあがり、電気ケトルでお湯を沸かす。こういうときは再び眠れるようにベッドの中で格闘するより、諦めて眠くなるまで本でも読んだほうがいい。

 

カラカラカラ。

音は止んだり鳴ったりを繰り返し続く。一体何の音だろうか。スケボーにしては、音の粒が少しゆっくりだ。ブラインド越しに外を覗いてみたが、正体を見つけられなかった。ベランダに出てから下を見れば分かりそうだが、外の寒さを上回るほどの好奇心ではない。私はソファに腰をおろし、カフェインレスのコーヒーを飲みながら、ペーパーバックを開く。

 

カラカラカラ。

一編の短編を読み終えるまで、その音は続いた。右から左へ、左から右へ。音は何度も行ったり来たり、何かを引きずっていた。コーヒーカップを洗うため台所に向かったとき、目に入ったカレンダーから、今日は資源ごみの日だと気がついた。そうか、これはホームレスが早朝にアルミ缶を回収して回る音だ。休職中で曜日感覚を失っていなければ、もっと早く気がついていただろう。

人間、分かってしまえば怖いものはない。これからは資源ごみの前夜は耳栓でもして寝ればいい。今なら、ストンと眠れそうだ。私は電気を消して再びベッドに潜り込む。

 

(カラカラカラ。)

まぶたを閉じると、何度も行ったり来たりしたその音が、今度は映像付きで脳内再生された。ふと思う。

そこから抜け出すには、もっと効率よく回ったほうがいいかもしれないぞ。