リボで払う気持ちがわかる

社会人になって、初めてまとまった給料をもらった。何を買おうか話題になったが、喜びもつかの間、3日後に迫るカードの引き落とし額を見て真顔になった。

 

金遣いの荒さも上には上がいる。会社同期のひとりは大量のカードとボーナス払いを駆使し、あらゆる手段で痛みを繰り延べながら物欲を満たしている。

 

「どうせ後で金入るんだからなんとかなるでしょ」

彼の言い分は間違ってないが、このままリボ払いにエスカレートしそうで心配してしまう。というのも、私はリボ払いに過剰な恐怖心をもっている。

お小遣いとお年玉しか収入源のない小学生の頃から、親に「リボ払いだけは絶対に手をだすな」と口酸っぱく言われていたので、リボ払いは悪であり縁遠いものだとぼんやり認識していた。

その認識は大学生になって、闇金ウシジマくんの映画を見て強化される。借金を取り立てるウシジマくんは、債務者の前歯で挟んでゴルフボールをティーアップし、フルスイングで飛ばしていた。ボールは勢いよく打ち出されて宙を舞う。反発でへし折られた前歯と共に…。

芯を食った打球音の心地よさに似つかわしくないショッキングな映像は、ぼんやりした警戒心を明確な恐怖に塗り替えた。闇金とリボ払いには手を出すまい。

 

目先のお金より、永久歯の方がよっぽどかわいい。

 

しかしここ1年、イボ治療のために皮膚科に通いながらリボ払いしていると錯覚することがある。

治療では自然と大きくなるイボを、1,2週間ごとに液体窒素で患部を凍結殺菌し、じわじわイボを小さくして消滅させる。

まめな通院が必要とはいえ、1年通っても治療が終わらないのはひとえに私の怠惰のせいとも言える。イボが大きくなるより早いペースで治療を受ければいいのだが、痛みもないし忙しいから、と少し目を離すとイボは豆苗のようにみるみる成長している。

 

その速度に焦った頃になって、私はやっと重たい腰を上げる。

明らかに適切なペースを守れていないのに、凍結されてヒリヒリとする痛みと引き換えに、今月もかろうじて拡大は食い止めたぞと安心感をもらう。これではいつまでも減らない元金をよそに、利息だけ払って生き延びるダメ男のようじゃないか。

 

もし私がリボ払いに手を染めていたら、瞬く間に堕落しただろう。

親は私の人間性まで見通して、リボ払いはやめろと説いたのかもしれない。父母の慧眼に脱帽。

 

ひとまず今の私に必要なのは、リボ払いでなく、イボ祓いのようだ。