ノリの悪い魚は知らない方が幸せだった

知らない方が幸せなことはある。

先日、初めて渓流釣りをした。開始早々2匹釣れたとこまでは良かったが、あとは竿が揺れる気配すらなくひたすら立ちんぼだった。

待ちを楽しむのが玄人の嗜みだとわかってはいるものの、せっかちビギナーにとっては釣れなくなると当然フラストレーションが溜まってくる。なお渓流は海と違って、澄んだ水面から魚の影が見えるためエサを垂らす場所にアタリをつけやすい。しかし魚がいるのがわかってるせいで、何で食いつかんねん!と余計にフラストレーションが増幅されたのも確かだ。

知らなかったら純粋に釣れた魚に感謝できるのに、見えてしまうからシカトする魚にモヤモヤするんだろう。総じて楽しい経験だったが、この日は釣れたニジマスと一緒に少しのモヤモヤを抱えて、渓流を後にした。

 

ノリの悪い魚は知らない方が幸せだった。

 

そういえば、エレベーターも停止位置の階数表示があるほうが、待ち時間にストレスを感じやすいと聞いたことがある。運営目線にたつと、表示がなければエレベーターは全体最適を目指して行動できるが、表示があると待っている人を素通りするわけにもいかずに効率の悪いオペレーションになり待ちが長くなる。利用者目線にたつと、表示がなければ純粋にやってきたエレベータに感謝できるが、表示があるからB2階でモタモタするエレベータに目が行ってイラついてしまうわけだ。

 

なるほど、エレベータは釣り人にとっての魚と同じだな。

 

なんて勝手に納得しながら、私はオフィスに向かうエレベーターを待った。一度でも経験したのだから私も釣り人の端くれ、今日は穏やかな気持ちで待つことにしよう。

 

ピンポーン。

エレベータがやってきた。
よし、魚をとらえたぞ。
扉が開いて、中に乗り込んだ。
何だか、釣り人としてのレベルが上がったような気さえしてくる。

 

そうして私は、上の階へとつり上げられていった。