少しあたたかい冬の沖縄

沖縄旅行で彼女にプロポーズをした。出発直前に詰め込んだ計画はどうにか破綻することもなく進み、幸運にも彼女は首を縦に振ったことで、旅行は成功といえるかたちで幕を閉じた。

旅の発端は、彼女が沖縄出張のあとに有給をつけて観光しようとしたことだった。私もそれに合わせて、一泊二日の弾丸日程で沖縄に合流した。合流を決めたときには、彼女が予約していた帰りの便に空席はなかった。そのため、私たちは別々のフライトで帰ることになり、余韻に浸る間もそこそこに那覇空港で別れを告げた。もっとも、帰る先は同じ駒込ワンルームなのだが、束の間、我々はお互いひとりになる。

 

成田まで約2時間半。搭乗して席に着いた私は、オフラインで保存していたボブ・ディランAirPodsから流し、目を閉じる。穏やかな余韻に浸りたいときは、こうしているのが心地いい。しかしアルバムも半ばを過ぎ、うとうとしかけたその時、右耳のイヤホンが外れて座席の隙間へと転がってしまった。ライトで照らしても見つからない。手を伸ばしても感触はない。そのうちにまどろみから覚めたので、仕方なく左耳のイヤホンもケースに戻して、本を読み始めることにした。

イヤホンは着陸後にゆっくり探せばいい。それでもケースにつがいが揃っていない間は、どうにも落ち着かないのだった。実際、着陸してから探すと、イヤホンは拍子抜けするほどあっさり見つかった。安心して左右のイヤホンを耳にはめ直すと、何事もなかったかのようにボブ・ディランは続きを歌い出す。そのメロディーは、さっきよりも少しだけあたたかく響いた。

 

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LCCなので仕方ないが、駐機場に着いてからターミナルまで10分ほど歩く必要があった。その道のりは金網と布で仕切られた簡素な通路から成っており、入り口と出口を定めただけの手作り感はこの旅行を体現しているようだった。金網は一切の風を遮らず、東京の冷えた空気が私の背筋を伸ばす。空のさんぴん茶のペットボトルは、通路脇のゴミ箱に残されていった。旅と日常のあいだあいだの通路を抜けて、これから私は駒込ワンルームで再び彼女と合流する。

 

旅の前と何も変わらない、ただ少しだけあたたかいような、同じ生活が続いていく気がした。