逆流性ショック道炎
就職面接の前、景気付けにハンバーガーを食べた。
音楽や雑誌も楽しめる小洒落たお店で、これまで何度か訪れたお気に入りの場所。
私はいつもと同じハンバーガーとポテト、ドリンクのセットを頼み、ナイフとフォークを使いこなす紳士淑女を横目に、豪快にハンバーガにかぶりつく。
わずかに歯が触れただけで肉汁が溢れ出すジューシーなパティ、はみ出るほどに乗ったフレッシュなレタスとトマト、表面はカリッと中はふっくらと焼き上げられた香ばしいバンズ。コンビネーションは抜群だ。美味しい。間違いなく美味しいのだが…。
程なくして手が止まる。
胃もたれした体が肉を拒絶し始めていたのだ。
このまま食べきるのは無理だ。気分転換を図ろうとハンバーガーを置いて付け合わせのポテトに手をつけるが、こちらも進まない。やはり伊達に揚げられている訳ではない。
かつての私なら付け合わせごとハンバーガーを丸呑みして、帰りにファミチキとスティックメロンパンを流し込んでいただろう。それが今の私には目の前のポテト一本一本が内臓を突き破るロンギヌスの槍に見える。
実は少し前に逆流性食堂炎だと診断され、私は自分の胃腸が強くないことは自覚していた。それでも改めて分かりやすい形で老いを突きつけられると悲しくなる。
世の大人たちが「若者には何者にでもなれる、無限の可能性があって羨ましい」と言っても、これまで全くピンと来なかった。しかし私は23歳にして、初めてその意味を理解する。
たった今、私はフードファイターへの道を絶たれたのだ。
涙もかれ果てて
もう二度と笑顔にはなれそうもないけど
そんな時代もあったねと
いつか話せる日がくるわ
あんな時代もあったねと
きっと笑って話せるわ
引用:「時代」中島みゆき
嗚呼、中島みゆきさん。
夢を諦めた今日という日を、笑って話せる未来はいつ頃きますか。
吐き出したため息は、胃液と混じって酸味を帯びていた。